天びん比較ガイド
天びんはどう選べばいいのでしょう?
計量精度や機能、使い勝手など、選ぶポイントはさまざまですが、単なるスペック比較では見えてこない違いもあります。
そこで、このガイドでは アルファ目線 で、4つの主要メーカー(株式会社エー・アンド・デイ、ザルトリウス株式会社、新光電子株式会社、メトラー・トレド株式会社)の天びんを比べながら、選び方のポイントをわかりやすく解説します。
01. 比較ポイントの概要
02. 応答性
03. 安定所要時間の短さ
04. 繰返し性と直線性の高さ
05. 天びん皿のがたつきはNG
06. コマンドレスポンス
07. コマンドの豊富さ
08. 内部分銅付きがおすすめ
09. アルファ基準での選定フローチャート(※2025年3月現在)
※アルファでは天びん単体の販売はしておりません。こちらの記事は天びん選定の参考資料としてお役立てください。
01. 比較ポイントの概要
天びん(電子天秤)を選定・比較する際のアルファ目線での主なチェックポイントは以下のとおりです。
・応答性:サンプルを載せてから測定値が安定表示されるまでの速さ。
・安定所要時間の短さ:計量データが安定するまでに必要な時間が短いこと。
・繰返し性・直線性の高さ:同じ物を繰り返し量っても結果がほぼ変わらず、さらに測定範囲全体で理論値とのズレが小さい特性。
・天びん皿の安定性:計量皿(はかり皿)がぐらつかず安定していること(自動計量時に重要)。
・コマンドレスポンスの速さ:ゼロリセット(風袋合わせ)など操作指令に対し、即座に反応して表示や出力が切り替わる性能。
・コマンド機能の充実:外部から多彩な操作指令(ゼロ合わせ、単位切替、校正指示、安定判定、エラー情報取得 等)が行える機能の有無。
・内部校正機能の有無:内部に校正用の分銅を搭載し、ボタン操作やスケジュール設定で自動校正できる機能。
以上のポイントに沿って各社の天びんを比較検討します。
02. 応答性(レスポンススピード)
計量作業では応答性(反応の速さ)の良し悪しが作業効率を大きく左右します。
応答性に優れた天びんであれば、サンプルを置いてすぐに測定値が安定表示されるため、オペレーターは待ち時間なく次の作業に移れます。
リアルタイムに値が反映されることで異常の早期発見や迅速なフィードバック制御も可能になり、生産プロセスのスピードと品質が向上します。
一方、応答性が低い天びんだと安定表示まで毎回待つ必要が生じ、作業のテンポが乱れて効率低下につながります。
アルファでは、この「応答性」を特に重視して製品選定を行っています。
動画が見られない方はこちらからご覧ください。
03. 安定所要時間の短さ
計量データが安定するまでの時間(安定所要時間)が短ければ、トータルの作業時間を大幅に短縮できます。特に生産現場や実験室など1日に多数のサンプルを計量する場合、わずかな時間差でも積み重ねれば大きな差となります。例えば、ある天びんが1回の計量につき1秒で安定するのに対し、別の天びんでは3秒かかるとします。
この2秒の差は一見小さく思えますが、100回の計量では約200秒(3分強)、1000回では約2000秒(30分以上)のロスとなります。
安定所要時間が長い機種を使っていると、このような無駄な待ち時間が日々積み重なり、生産性に大きな影響を及ぼすのです。
逆に安定所要時間の短い機種なら、作業者のストレス軽減や処理スピード向上につながり、長期的に見て大幅な時短効果を発揮します。
(※下記「天びん比較一覧」参照)
04. 繰返し性と直線性の高さ
繰返し性とは、同じ物を何度測定しても同じ値を示す能力を指します。
これが低いと、測定ごとに異なる結果が出るため、計量作業における信頼性が低下します。
高精度な天びんほど繰返し性が優れており、メーカーによる品質管理の差も表れます。
繰り返し性が良い=同じサンプルを量ったときに計量値がブレにくく、信頼性の高い測定結果が得られることを示します。
直線性とは、実際の質量と計器が表示する値との関係がどれだけ直線的であるかを示す特性です。
測定範囲全体において、入力(質量)と出力(表示値)が直線的な関係を保つことは、あらゆる質量で一貫した精度が得られることを意味します。
直線性が優れている=量る重量が変化しても、理想的な重量(真値)と測定値のずれが小さいことを意味します。
繰返し性・直線性に注目!
「0.1mg~1mg目量」天びん比較一覧
アルファが注目する「繰り返し性・直線性」で見る、各社モデルの大まかな対応イメージを示します。
(実際のラインナップは多数あるため、下記は一例です。)
ザルトリウス | メトラー・トレド | 新光電子 | エー・アンド・デイ | |
タイプ |
ラボ用電子天びん |
分析天びん |
分析用電子天びん |
分析用電子天びん |
目量 |
0.1mg |
0.1mg |
0.1mg |
0.1mg |
秤量 |
80~320g |
220g |
80~220g |
120~320g |
繰返し性(※) |
0.04mg |
0.04mg |
0.1mg |
0.1~0.2mg |
直線性(※) |
0.2mg |
0.2mg |
0.3mg |
0.2~0.3mg |
安定所要時間 |
1s |
1.5s |
非公開 |
1.5~2s |
※繰返し性:同じサンプルを繰り返し量ったときに、どの程度測定値が変動するかを示す指標。
※直線性 :計量範囲内での測定値が、理論的に求められる重量とどの程度一致しているかを示す指標。
05. 天びん皿のがたつきはNG
電子天びんを粉体自動計量装置に組み込む際には、計量精度や耐久性に直結する様々な要因を検討する必要があります。その中でも見落とされがちなポイントが「天びん皿のがたつき」です。
天びん皿のがたつきとは、電子天びんの計量皿(はかり皿)がわずかにぐらついたり緩んだりして、しっかり安定しない状態を指します。計量皿が安定していないと、重量物を載せた際に皿が微妙に動いてしまい、正確な計量に支障をきたす恐れがあります。
・人間の手計量では、自然な力加減や柔軟な修正が働くため、天びん皿のがたつきはあまり顕在化しません。
・ロボットによる自動搬送では、衝撃がダイレクトに加わり、容器の位置ずれや衝突のリスクが高まる分、天びん皿ががたつくと一気に不具合(誤差増大・故障リスク上昇)へと直結しやすくなります。
・したがって、自動化ラインに天びんを導入する際は、皿のがたつきが無いものを選定します。
・組込み天びんは天びん皿のがたつきはありません。
アルファでは「ザルトリウスのCubis」「メトラーの組込み天びん」を主に使用しております。
06. コマンドレスポンス
電子天びんは、重量データの取り扱いだけでなく「コマンドレスポンス」—つまり、操作や指令(コマンド)に対して天びんが応答し、表示や出力が切り替わるまでの速さ—が作業効率に大きく影響します。特に自動計量装置やラインの中で繰り返し計量を行う場合、たとえ数秒の遅れでも積み重なると大きなロスとなり得ます。
作業効率への影響
・目視中心の手計量であれば、多少ゼロ合わせに時間がかかっても、他の作業をしながら待つ(容器を準備する、材料を取り出す等)といった工夫が可能です。
・一方、計量操作が頻繁になるほど「ゼロ合わせ+待ち」の積み重ねが作業時間のロスになります。
特に少量多品種を次々に量る場合には、1回あたり2秒のタイムロスが何十回・何百回と積み重なると無視できません。
天びん選定時には「ゼロリセット(風袋合わせ)操作の所要時間」や「安定表示までの応答時間」をしっかり確認し、自社の生産ラインや装置制御の要件にマッチした機種を選ぶことが重要です。
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07. コマンドの豊富さ ~コマンドが豊富だと使いやすい~
1. 自動計量ラインとの連携がスムーズ
コマンドが豊富な天びんは、自動計量ラインや外部システムとの連携において大きなメリットがあります。たとえば、次のような操作をすべて外部から指令できると、手動操作を最小限に抑えられ、生産性の高い自動計量が実現します。
- ゼロ合わせ(風袋引き)
- 単位切替
- キャリブレーション(校正)
- 計量値の安定判定
- エラー状態のモニタリング
これらの機能を1つのシステムで制御・監視できるため、オペレーターがわざわざ天びんを操作する手間が減り、ライン全体の制御ロジックがシンプルになります。
2. 設定変更やトラブルシュートがしやすい
コマンドで細かいパラメータをリモート操作できる機種なら、安定検知の閾値や表示速度などの調整を現場で素早く行うことが可能です。
3. システム拡張性が高い
コマンド体系が充実している天びんは、将来的に機能拡張や装置追加があっても柔軟に対応できます。
4. コマンドが少ないと困るケース
・ゼロリセットの自動化ができない:都度オペレーターが天びんの前に行き、ボタンを押す必要がある。
・調整パラメータの変更に時間がかかる:ラインを止めて、取扱説明書を見ながらボタン操作を行うため、作業効率が低下する。
・エラー原因が分からない:天びん自体から「エラー」としか出ず、詳細情報が取得できないため、迅速なトラブルシュートが難しい。
これらのデメリットを避けるためにも、電子天びんを選定する際はコマンドの充実度をしっかりチェックしておくことが大切です。
初期コストがやや高くても、コマンドが豊富な天びんを選ぶことで、
- 自動化率を高めた生産効率向上
- 人件費・メンテナンス費の低減
- 将来的な拡張性確保
が見込めます。
自社の自動化・効率化の方向性や将来的な拡張計画を考慮しながら、コマンドが豊富で使いやすい天びんを選ぶことをおすすめします。
08. 内部分銅付きがおすすめ
1. 校正作業の手間と時間を大幅に削減
内部分銅付き電子天びんでは、ボタンを押すだけ、またはスケジュール設定による自動校正が可能なため、
・作業者の手間を省略
・校正作業にかかる時間を短縮
・分銅の管理が不要
といった運用の大幅な効率化につながります。
2. 自動計量ラインとの相性が良い
内部分銅付きの電子天びんを導入すれば、
・装置を止めずに自動校正
・無人運用が可能
・校正のスケジュール設定で定期メンテナンスを自動化
といったメリットが得られます。これは、連続生産や24時間稼働の生産ラインにおいて、非常に重要な要素です。
計量精度の確保や作業効率向上を重視する現場では、初期投資は多少高くても、長期的な運用コスト削減や作業効率化の観点から、内部分銅付きの電子天びんを選択することをおすすめします。
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09. アルファ基準での選定フローチャート(※2025年3月現在)
アルファでは、ザルトリウス社の天秤を最優先に使用しています。ただし、以下のような場合には他社製品を使用することもあります。
- 組み込み型天秤を使用する場合:これらの天秤は組み込み用途を前提としており、表示部がないことが多いです。そのため、さまざまなコマンド応答が可能な機種が適しています。この点で、メトラー・トレド社の製品を選択しています。
- 1グラム以上の計量が必要な場合:この範囲では応答性がそれほど重要ではなく、また、1グラム以上の計量は新光電子(進光電子)社の方が得意としています。
天びんの選び方をフロー図にまとめました:
まとめ
最後に、アルファ目線で天びんを選定する際に特に重視するポイントを整理します。
・計量スピードの速さ(応答性・安定所要時間):
計量開始から安定表示までの時間が短いほど、生産ラインや実験作業の効率が向上します。無駄な待ち時間を減らし、作業全体のスピードアップに直結するため、アルファでは応答性と安定時間の短さを最重視しています。
・計量結果の信頼性(繰返し性・直線性・皿の安定性):
繰返し性や直線性が高く、計量皿ががたつかない天びんは、常に安定した測定結果を提供します。測定値の再現性と精度が確保されることで、品質管理の信頼性や実験データの再現性が向上するため、機種選定時には精度面の指標も重視しています。
・自動化対応力(コマンド機能・内部校正など):
外部から多彩なコマンド操作が可能で内部校正機能を備えた天びんは、自動計量システムへの組み込みが容易で、手動作業を最小限にできます。実際、アルファではゼロリセットの応答遅れが少なくコマンド体系が充実した機種や、内部分銅付きで自動校正可能な機種を選ぶことで、24時間稼働や無人運用でも安定して稼働できる体制を重視しています。
これらのポイントを踏まえて天びんを選定することで、たとえ初期コストがやや高くても、長期的には作業効率の大幅な向上やダウンタイム削減など大きなメリットが得られます。ぜひ応答性・安定時間の速さや測定信頼性、自動化対応力に注目して、自社の用途に最適な電子天びんを選んでいただければと思います。
※アルファでは天びん単体の販売はしておりません。こちらの記事は天びん選定の参考資料としてお役立てください。