天びん比較ガイド
研究室や工場、製薬・食品関連の分野など、あらゆる場面で「正確な計量」は不可欠です。
天びんの選定は、計量精度・最大秤量・使用環境・設置スペースなど、さまざまな要素によって左右されます。
今回ご紹介する4社(株式会社エー・アンド・デイ、ザルトリウス株式会社、新光電子株式会社、メトラー・トレド株式会社)は、それぞれ独自の強味をもつ天びんメーカーです。
お客様のご要望や作業環境に合わせて最適な天びんをご選定いただくための一助となれば幸いです。
01. 比較ポイントの概要
02. 各社天びんの比較リスト
03. よく利用する目量/最大計量値の例
04. 内部分銅付きがほぼ必須
05. まとめと選定のポイント
06. おわりに
※アルファでは天びん単体の販売はしておりません。こちらの記事は天びん選定の参考資料としてお役立てください。
01. 比較ポイントの概要
・設定による違い
◦フィルタ設定(応答速度切替、振動除去設定など)
◦オートゼロ(Auto Zero)の有無・設定幅
◦外部校正/内蔵校正の有無(キャリブレーション機能)
◦通信インターフェース(RS-232C、USB、Ethernet など)
・応答性
◦サンプルを置いてから測定値が安定表示になるまでの時間(1秒~数秒程度)
◦フィルタ設定により応答速度を上げると、環境振動に敏感になりやすい
・安定性
◦時間経過や環境変動(温度・湿度・気流)に対する測定値の変動の少なさ
◦剛性の高い筐体や振動を抑える機構、あるいは高度なデジタルフィルタを搭載しているかなどで左右される
・天びんの重さ
◦小容量タイプは軽量(数kg以下)で持ち運びしやすいものが多い
◦大容量タイプ(十数kg~数十kg以上計量できるモデル)は、本体重量も大きく剛性重視の頑丈な構造
・天びん皿の形状
◦円形皿は一般用途に多い
◦四角形皿はロスイン供給など自動機への組み込みや、大きめのサンプルを置く際に使いやすい
・目量/秤量
◦1g/62kg、100mg/3~6kg、10mg/6.2kg、1mg/620g、0.1mg/220g、0.01mg/2~20g など、
精度と容量の組合せは多岐にわたる
◦目量が細かいほど高精度だが、安定性確保や価格とのバランス検討が必要
◦同一シリーズでも複数バリエーションが存在するので、表の例はあくまで目安とする
・価格帯
◦オプションや販売ルートによって変動が大きいため、あくまで目安としてお考えください
02. 各社天びんの比較リスト
以下の表では、当社がよく扱っている代表的な機種の一例や、一般的な特徴をまとめています。
シリーズやモデルによって目量・秤量、応答性、オプションなどに違いがあるため、詳しい仕様や機能については必ずメーカー資料をご確認ください。
項目 | ㈱エー・アンド・デイ | ザルトリウス㈱ | 新光電子㈱ | メトラー・トレド㈱ |
代表的な機種例 |
-GHシリーズ |
-Entris(エントリス)シリーズ |
-XFRシリーズ |
-LAシリーズ |
設定による違い (機能) |
-応答速度(FAST/MID/SLOW) |
– フィルタ設定 |
– 振動式センサによる高速 |
-LabX連携やユーザー管理 -GWP(Good Weighing Practice)対応 -高機能UI&多彩なインターフェース |
応答性 |
– 標準設定で1~2秒程で安定表示 |
-Entris:1~2秒程度で安定 |
– 振動式センサにより |
– 一般に1~2秒で安定 |
本体重量(目安) |
– 小型モデル:4kg程度 |
– Entris:5kg前後の機種多数 |
– 小型モデル:3kg程度 |
– 小型でも3~6kg前後 |
剛性 |
– 金属製フレーム+プラスチックカバー |
– 上位モデル(Cubis)はオール金属フレームで剛性抜群 |
– 業務用・産業用として頑丈な設計 |
– 高剛性フレーム(MonoBloc)採用機種が多い |
天びん皿の形状 |
– 円形皿が多い |
– 四角形皿モデル多数 |
– 円形皿が主体 |
– 円形・四角形・組込み用・特注など多種 |
目量/秤量の一例 |
– 1mg/620g(FZ系) |
– Entris: 1mg/620g |
– 1mg/6.2kg |
– 0.1mg/210g~510g |
価格帯(目安) |
– 比較的安価~中価格 |
– Entris:中価格帯 |
– 比較的安価~中価格 |
– 高価格帯 |
その他必要情報 |
– 表示部はLCD/LED |
– ソフトウェア連携・21 CFR |
– 耐久性・信頼性重視 |
– 自動計量ライン・組込みシステム多数実績 |
総合評価(傾向) |
– コストと性能のバランスが良い |
– 医薬・バイオ分野など高精度が必要な用途に強み |
– 大容量モデルに強み |
– 高精度・組込み用途に強い |
アルファでは、より高い精度・安定性・規格対応力・サポート体制を重要視したうえで、ザルトリウス・ジャパン、メトラー・トレドの天びんを使用しております。確かに導入コストは上がりますが、長期的視野での品質管理や研究開発効率、規格適合性を考慮すると、その付加価値は非常に大きいといえます。
製品選定の際は、求める精度・使用環境・将来的な拡張性などを総合的に考慮しながら、お客様のニーズに最適な天びんをご提案いたします。
03. よく利用する目量/秤量の例
以下の一覧表では、ユーザー様がよく利用される組合せを参考に、目量 / 最大計量値ごとに代表的な用途や例示される機種をまとめています。
研究室や品質管理、製造ラインなど、求められる精度・秤量に合わせた天びん選定の参考にしてください。
(実際のラインナップは多数あるため、下記は一例です。)
目量/秤量 |
用途の規模・特徴 |
代表的な機種・例 |
1g / 62kg |
– 大容量計量(粉末・原料など多量の取り扱い) |
– 例:新光電子「HJ-62KJS」など |
0.1g/12kg |
– 中容量・中精度帯 |
– エー・アンド・デイ、新光電子など、各社の 中容量モデルにラインナップあり |
10mg / 6.2kg |
– ある程度大きな重量を計量しつつ、小数点以下2桁 |
– 例:エー・アンド・デイ「GXシリーズ(10mg目量)」、 ザルトリウス「Entris6202i」など |
1mg / 620g |
– 汎用的な精密計量 |
– 例:エー・アンド・デイ「FZ/FXシリーズ」、ザルトリウス「Entrisシリーズ」一部機種 |
0.1mg / 220g |
– 微量計量領域 |
– 例:ザルトリウス「Cubisシリーズ」上位モデル、メトラー・トレドのアナリティカルバランス |
0.01mg / 2~20g |
– 極微量計量(半導体材料・高分子材料等の先端研究) |
– 例:ザルトリウス「超微量マイクロバランス(SE2など)」、 メトラー・トレド「XPEマイクロバランス」など |
具体的な機種名・スペックはメーカーやモデルにより異なるため、最終的には実際のカタログヤメーカーサイトで仕様を必ずご確認ください。
ポイント
- 大容量~極微量まで、必要な精度・秤量によって機種選定が変わります。
- 「1g/62kg」のように、目量は粗くても大容量を量れるタイプから、「0.01mg/20g」のように少量を高精度に量るマイクロバランスまで、幅広い選択肢があります。
- 具体的な機種名・スペックはメーカーやモデルにより異なるため、最終的には実際のカタログやメーカーサイトで仕様を確認してください。
04. 内部分銅付きがほぼ必須
頻繁に校正が必要な現場や、運用効率を重視する場合には、多少コストが上がっても内部分銅付きモデルを選んだほうが結果的に得策です。
「すぐに校正できる」という利便性は、計量精度の安定だけでなく、作業時間や人手削減といった効果ももたらします。
多少価格差があっても内部分銅付きモデルを推奨いたします。
内部分銅付きモデルのメリット
1. 手軽な校正
校正時に別途分銅を用意する必要がなく、天びん側の操作だけで手軽に精度チェックや調整が可能です。
2. 運用効率の向上
頻繁に天びんを使用する現場では、外部分銅を取り出したり保管したりする手間が減り、作業時間の短縮につながります。
3. 測定環境が安定しやすい
天びんによっては自動で内部校正を行う機能があり、温度変化などによる測定誤差を補正しやすい点も魅力です。
05. まとめと選定ポイント
ここまでご紹介してきたとおり、一口に「天びん」といっても、メーカーやシリーズ、最大秤量や目量(最小表示)、さらに内部分銅の有無によって価格や機能・使い勝手は大きく異なります。
選定時に特に検討しておきたいポイントを以下にまとめました。
1. 最大秤量と目量(最小表示)
・最大秤量
◦実際に量るサンプルの重さだけでなく、「どれくらい余裕を見ておきたいか」を考慮します。
◦頻繁に重いサンプルを扱う場合、ひょう量がギリギリの機種では耐久性や使い勝手の面で不安が残る可能性があります。
・目量(最小表示)
◦高精度になるほど価格は上昇するため、「どのくらいの精度が本当に必要か」を事前に明確にしておくことがコスト面で重要です。
◦研究所や医薬品関連の厳密な管理が必要な場面では0.1mg(0.0001g)やそれ以上の精度が要望されることも。逆に1g/数十kgなど大量秤量が優先の場合は、目量を細かくするより大容量のほうが適しています。
2. 利便性重視なら内部分銅付きがおすすめ
内部分銅付き天びんは、作業効率・精度管理・長期的な運用コストを重視する現場に特におすすめです。もし常に高い精度を求められるのであれば、わずかな価格差よりも、利便性と作業性の向上を優先して検討してみてください。
3. 設置環境・使用環境
・安定した場所の確保
◦天びんは振動や気流の影響を受けやすいため、作業台や机は水平・堅牢なものが望ましい。
◦エアコンや扇風機の風が直撃しないように注意。
・温度・湿度管理
◦特に0.1mg~1mgクラスの微量計量では、温度変化や静電気対策が重要。
◦必要に応じてイオナイザ(静電気除去装置)や防塵カバー等の設置を検討。
4. メーカーの特徴
・エー・アンド・デイ(A&D)
◦幅広いシリーズを展開し、コストパフォーマンスに優れる。
◦研究室から工場ラインまで汎用的に導入可能。
・ザルトリウス(Sartorius)
◦医薬・バイオ分野に定評があり、高精度・高剛性のモデルが豊富。
◦自動校正機能(isoCAL)や規制対応(21 CFR Part 11など)に強い。
・新光電子(VIBRA)
◦振動式センサで応答性と安定性を両立。
◦大容量モデルに強く、産業用途での実績が多い。
・メトラー・トレド(Mettler Toledo)
◦グローバルシェアが高く、組込み用途や自動計量ラインへの対応力が豊富。
◦先端的なセンサ技術(MonoBlocなど)と世界規模のサポート体制が魅力。
5. 予算・アフターサービスも要確認
・アフターサービス・修理対応
◦天びんは長期間使用する計測器なので、定期点検や校正・修理体制が整っているかが非常に重要。
◦導入後にトラブルが起きた際のサポートや、メーカーの修理拠点の有無を確認しておくと安心。
・予算とのバランス
◦必要最低限の精度・機能を確保しつつ、どこまで拡張性や便利機能を求めるかで価格は変動
◦機能差の割には価格差が大きくなりがちなので、メリットをよく比較検討することが大切。
06. おわりに
天びんの選定では、計量精度や最大秤量はもちろん、使用環境、校正頻度、そしてコストなど多面的な判断が必要です。
高精度モデルだからといって必ずしも最適とは限らず、オーバースペックがコスト増につながる場合もあります。
「どの程度の重さを、どれほどの精度で、どんな頻度・環境下で量るか」を改めて整理したうえで、内部分銅の有無やメーカーのサポート体制を見比べてみてください。
必要十分な性能を満たしつつ、将来的な拡張やメンテナンスを考慮して選定することで、長期的なコストパフォーマンスと安定した計量が実現できます。
※アルファでは天びん単体の販売はしておりません。こちらの記事は天びん選定の参考資料としてお役立てください。